ゼムクリップの謎を追え!
仕事中はゼムクリップをよく使う。
自分のデスクのクリップ皿はいつもいっぱいであって欲しい。
だけどこのゼムクリップ、いつの間にか不足しがちになるのだ。
一体全体、ゼムクリップは何処へ消えるのか?
この大いなる謎を解くべく、俺は数年をかけて自費でゼムクリップを購入して1万個くらいを社内に流通させてみた。みんなのデスクのクリップ皿がいつも満たされていて、ささやかな幸せに繋がればいい…そんな淡い期待を込めて。
膨大な数である。さして広くない社内、人の通った後にはゼムクリップが落ちていてもおかしくないくらいの量だ。
なのに今日も俺のデスクのクリップ皿は寂しいものだった。
何故だ。
社内の全員がクリップはたくさんあって欲しいと思っているから捨てるなんてもっての他だ。
なんなら保持力の甘くなったクリップは形を整えて使ってるぐらいなのに。
一度整理してみる。
職務上、俺はクリップを流す方の立場にある。様々な書類を案件ごとにまとめてクリップして後の業務につなげている。
そしていくつかのセクションを通り抜けた後、最終的には社内の経理に書類およびクリップは行き着く。つまり経理には大量のクリップが溜るはずなのだ。
しかし経理のコマツバラさん(♀:仮名)のデスクに大量のクリップがうず高くなっている事はほぼない。
何故だ。
仮説その① コマツバラさん(♀:仮名)が持ち帰っている
溜まったゼムクリップはコマツバラさん(♀:仮名)が持ち帰り、屑鉄屋で換金しているという仮説。
毎日持ち帰り続ければ半年で数キロになるのではなかろうか。ちょっとした小遣いにはなりそう。いつもコマツバラさん(♀:仮名)は誰よりも早くそそくさと帰っていく。きっと手提げの中にはいくらかのゼムクリップが入っているからついつい足早になってしまうのかもしれない。
俺の目はごまかせない。内部告発してやる。
仮説その② コマツバラさん(♀:仮名)が食べている
実はサイボーグだったコマツバラさん(♀:仮名)。内燃機関を稼働させる為にオイルの他に金属類を経口摂取しなければないという仮説。
そう思えば思うほどだんだんとコマツバラさん(♀:仮名)がサイボーグに見えて来ない事もなくはない。
今日も彼女が歩く時に関節がかすかにカシャンカシャンと鳴っていたような気がする。
いちおう、毎日冷蔵庫にあるお茶のようなものを飲んではさりげなく人間である事をアピールしているが、あれは皆の目を欺くための偽装工作かもしれない。
俺の目はごまかせない。中身を本物のお茶に入れ替えて内部から壊してやる。
…
以上、2つほど仮説を立ててはみたが、どうも謎の答えではないような気がする。
ホントは毎日少しずつ取引先に持っていく書類にくっついてどっかに行ってしまうんだろうけど。
一度ゼムクリップになって旅をしてみたい。
それではまた。